犬も人と同様、毎日の食事により、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を体に摂り入れています。犬は哺乳類の一種ですので、必要とする栄養素の種類は、人とほとんど同じですが、必要とする量は違います。また、人が食べて問題のない食べ物であっても、犬にとっては有毒な成分を含んでいることがありますので、注意が必要です。
1.各栄養素のはたらき
<たんぱく質>
たんぱく質は、筋肉や皮膚、被毛、爪、骨・髄、血管、消化管、臓器といった体を構成する成分や血液成分やホルモンなどの体の機能を調整する物質として用いられたり、エネルギー源となったりする最も重要な栄養素です。犬は、人より多くのたんぱく質を必要とします。
たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、犬の場合、このうち10種類については、体内で作りだすことができないため、食物から摂取する必要があります。この10種類のアミノ酸のバランスは、食材によって異なるため、効率よくたんぱく質をとるためには、たんぱく質を含んでいる食材をいくつか組み合わせる必要があります。
<脂質>
脂質は、エネルギー源として用いられるだけでなく、細胞膜やホルモンなどの構成要素となるオメガ3やオメガ6などの必須脂肪酸1の供給源でもあります。必須脂肪酸は体内で作ることができませんので、食事として摂取しなければいけません。
<炭水化物>
炭水化物は糖質と食物繊維に分けられます。糖質には、ブドウ糖(グルコース)やオリゴ糖、でんぷんなどがあります。でんぷんは体内で消化されてグルコースとなり、エネルギー源として使われます。このグルコースは脳細胞が活動するための唯一のエネルギー源でもあります。
食物繊維には、消化管の活動を活発にして排泄を促進させる働きがあります。また、腸内の善玉菌の増殖を促すことにより、腸内環境を改善する効果も期待できます。食物繊維には保水性があり、適度の硬さの便を作ることに役立ちますが、摂りすぎると食物の消化管通過時間が短くなり、軟便になりやすい特徴があります。
<ビタミン>
ビタミンは、体の機能を正常に維持するために必要な栄養素です。食事として摂らなければならない量はわずかですが、欠かすことはできません。ビタミンには、ビタミンA、D、Eなどの脂溶性ビタミンと、ビタミンB1、B2、ナイアシン、葉酸などの水溶性ビタミンがありますが、脂溶性ビタミンは摂りすぎると体に蓄積してしまい、体の機能に障害が出るため注意が必要です。なお、犬は人と違って、ビタミンCを体の中で作り出すことができるため、食事の中にビタミンCが含まれていなくても健康上、問題ありません。
<ミネラル>
ミネラルは、骨格や歯などの構成成分として利用されたり、酵素の活性化や神経情報の伝達などの重要な生理機能を果たしたりします。犬に必要なミネラルは、カルシウム、リン、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅など12種類あります。
カルシウムとリンは骨格や歯の形成に必要ですが、どちらか一方を摂りすぎると、他方の吸収が阻害されて欠乏症状を起します。このため、摂取する量の比率も重要で、カルシウムとリンの比率は1:1~1:0.8程度が良いとされています。ちなみに、肉類、魚肉類はカルシウムに対してリンの量が多いため、肉類、魚肉類だけを与え続けるとカルシウムが不足し、低カルシウム血症となってしまうことがあります。
ナトリウムの必要量は人と比べるとごくわずかです。塩分は摂りすぎると腎臓に負担をかけるので、人の食事は与えないようにします。
2.食べさせてはいけないもの
犬に食べさせてはいけないものとして、良く知られているのは、ネギ類(玉ねぎ、長ねぎ、ニラ、にんにくなど)です。赤血球を壊す成分(アリルプロピルジスルファイド)が含まれています。この成分は加熱されても中毒を起こします。ハンバーグなど様々な人の食事に使われていますので、注意が必要です。
その他、野菜や果物、ナッツ類などでは、アボガド、ぶどう、マカデミアナッツなど、菓子類では、チョコレートやココア、キシリトール入りのガムも中毒症状を起こします。
その他にも、人には問題なくても、犬に有害なものがありますので、食べさせる前に必ず調べるようにしてください。また、糖類は過剰摂取するとビタミンB1やカルシウムの欠乏症を起こすことがありますので、人のお菓子を与えることは控えるようにしましょう。
3.ドッグフード(総合栄養食)について
ペットフード協会の調査によると、日本では現在、9割以上の家庭で市販のドッグフードが与えられているそうです。パッケージに「総合栄養食」と書かれているドッグフードは、適量を与えることによって、必要とされる栄養素をバランスよく摂れるように作られています。ドッグフードは、含まれている水分量によって、以下の4種類に分けられます。
ドライフード(水分量:10%以下)
常温で長期保存できるため、扱いやすく、最も多く利用されているフードです。
セミモイストフード(水分量:25~35%程度)
ドライフードに比べると、柔らかく香りも強いため、噛む力の弱い犬や食欲が低下した犬に適しています。開封後は冷蔵庫で保存します。
ソフトドライフード(水分量:25~35%程度)
セミモイストフードの一種で、「半生タイプ」とも呼ばれています。製造過程で発砲処理が行われているため、通常のセミモイストフードより柔らかいのが特徴です。セミモイストフードと同様に、開封後は冷蔵庫で保存します。
ウェットフード(水分量:75%程度)
水分を多く含んでおり、柔らかく嗜好性も高いので、食いつきは良いですが、ウェットフードだけで1日に必要なカロリーを補うには、ドライフードに比べて多くの量を食べる必要があります。開封後はいたみやすいので、食べきらない分は冷蔵庫で保管し、その日のうちに使い切るようにします。
4.手作り食を与える場合
手作り食は、飼い主さん自身で食材を選べるという安心感があります。一方で、健康を維持するために必要な栄養素の量やバランス、エネルギー量などについての知識が必要です。肉や魚などを使ってたんぱく質をしっかり摂るようにしますが、野菜や穀物など多くの食材を使うことで、ビタミン類やミネラル類も摂取します。食欲や便、体重、毛づやなどを見て、食事内容を調整することも大事です。
調理の際は、材料を消化しやすいようにカットして加熱します。加熱することによって、たんぱく質やでんぷんは、消化吸収しやすくなります。特に生肉には、食中毒を引き起こす菌やウイルスが含まれていることが多いため、十分、加熱することが必要です。
5.高齢期に気をつけること
犬も高齢になってくると活動量が減ってきますので、カロリーの摂りすぎによる肥満には、注意が必要です。また、代謝機能も低下してきますので、消化の良いものを選ぶようにしましょう。
- 犬の必須脂肪酸には以下のものがあります。
オメガ6脂肪酸: リノール酸
オメガ3脂肪酸: α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)
リノール酸はとうもろこしや大豆、チキンなど、α-リノレン酸は大豆やアマニ油、EPAとDHAは魚類に多く含まれています。 ↩︎
でんぷんのα化(アルファ化)とβ化(ベータ化)
小麦粉やコーンミール、米、ポテトなどに含まれるでんぷんは、生のまま食べても、消化することができませんが、水を加え、圧力をかけて加熱することで消化できるようになります。これをでんぷんのα化または糊化といいます。
α化したでんぷんは時間が経つと水分が蒸発して固くなり(β化または老化といいます)、消化されにくくなりますが、ドライタイプのペットフードの場合、加熱成型直後に乾燥させることによって、α化した状態が長く維持されるようになっています。