犬が家庭で暮らすうえで、子犬のときの社会化が大切であると聞いたことがある人は多いと思います。適切に社会化することによって、成長した後も、他犬や人と良好な関係を築き、生活環境に適応して過ごすことができるようになるためです。
社会化とは、生まれてきた個体がその種特有の社会行動パターンを身につけていく過程をいいます。犬の場合ですと、母犬や兄弟姉妹、あるいはその他の犬との関係を通じて、犬社会関係のルールやマナーを学んでいきます。また、人と接することによって、飼い主やその他の人間に対してどのような関係をもつか、どのようにふるまうべきかについても学びます。
社会化には、成長の段階で適切な時期があり、それが生後3週齢前後から12週齢前後までの子犬の時期にあたります。
それでは、生まれてから成犬になるまでの時期について、少し詳しく見ていきたいと思います。なお、以下に示す生後の日数や週齢は目安であり、成長の速度は犬種や個体によってかなり幅があると考えてください。
1.新生子期~移行期(生まれてから生後21日頃まで)
生まれた時から生後21日頃までは、ものを見たり音を聴いたりする力は、まだ十分に備わっていません。もっぱら、匂いと触った時に感じる温度や感触をたよりに母犬の乳を飲んで育ちます。母犬と触れ合うことには、落ち着く作用があるといわれています。この時期に母犬と接触が少ないと、不安行動が多くなり、将来の問題行動につながることがあるようです。
生後14日から21日頃は移行期とも言われ、視覚や聴覚などの感覚器が発達します。また、立ち上がって、歩くことができるようになるのもこの時期です。
2.社会化期(生後3週齢前後から12週齢前後まで)
新生子期、移行期をすぎると社会化期が始まります。社会化期の始まりと終わりは、徐々に進んでいきますので、生後14週齢頃までを社会化に重要な時期とする考えもあります。また、この頃から徐々に離乳も進んでいきます。(離乳は、通常、生後7週齢~9週齢頃までに完了)
感覚器や神経系が発達し、歩けるようになったこの時期の子犬は、目新しい刺激に興味を示し、恐れたり、躊躇したりせずに、その刺激に近づいて匂いを嗅ぐなどして調べるようになります。
同腹の兄弟姉妹や母犬と遊び始め、生後5週齢から6週齢頃になると遊びの頻度が急速に増すようになります。取っ組み合って遊ぶ中で、咬む力を抑制して甘咬みしたり、相手が苦痛の声をあげたら咬む力を弱めたりすることを学んでいきます。ボディランゲージや顔の表情も豊富となり、感情を表現するようになります。未知の刺激に対して探索行動をとるのもこの頃がピークです。
生後6週齢から7週齢頃になると、母犬は子犬の遊びが乱暴すぎたり、咬みつく力が強過ぎたときに、唸り声を上げたり、威嚇の姿勢をとったり、鼻づらを軽く咬んだり、子犬をひっくり返すなどして教育します。
このように、社会化期の初期は、同腹の兄弟姉妹や母犬と一緒に過ごすことが、たいへん重要なので、生後8週齢頃までは、母犬や兄弟姉妹から引き離すべきではないとされています。
人と接する機会も、この時期から増やしていくことで、将来、母犬や兄弟姉妹から離れて、新たな飼い主のもとへ行くときのストレスの軽減につながります。
生後8週齢以降の社会化後期も重要な時期になります。子犬のワクチン接種が完了する前であっても、だっこして外に連れ出したり、短い時間の散歩をするなどして、外の環境に慣らしていくことが大事です。ワクチン接種が済んだら、朝夕の散歩で外出し、一緒に暮らす家族以外のいろいろな人や犬と接する機会を作るようにします。
ところで、社会化は社会化期だけでしかできないのかというと、決してそうではありません。社会化は、様々な経験を通じた学習の積み重ねですので、たとえ、社会化期に他犬や人と触れ合う機会が限られ、うまく社会化ができなかったとしても、あとからのトレーニングによって学習させることは可能です。ただし、その場合には、その子の性格や個性を見極めながら、無理をさせないように徐々に学習させていくことが必要になります。ドッグトレーナーなど専門家の力を借りることも考えておくと良いでしょう。
3.恐怖期とは
子犬の成長段階には、社会化期のような目新しい刺激に興味を示す時期と恐怖を感じやすい時期(これを恐怖期と呼ぶことがあります)があります。最初の恐怖期は、生後8週齢から10週齢の頃に訪れますが、この時期は社会化期と重なるため、未知の刺激に対する興味と警戒する気持ちが併存し、物音に敏感になったり、それまで平気だった人に対して吠えてしまうことがあります。
社会化期が終わったあと、時期としては生後6か月齢から14か月齢くらいの頃に、再び恐怖期を迎えます。この2回目の恐怖期は、最初の恐怖期より、大きな影響を与えると言われることもあります。
恐怖期に怖い経験をしてショックを受けると、それがトラウマとなり、生涯にわたって情緒不安定や恐怖反応、攻撃性を引き起こすことがあります。ですから、この時期には嫌な経験をできるだけさせないようにするとともに、何かに慣らそうとするときも、無理をしないことが肝心です。
4.若年期(社会化期が終わったころから性成熟の前まで)
犬が性成熟する時期は、雄ではだいたい生後10か月を過ぎた頃、雌は犬種によって幅があり、6か月齢から12か月齢になります。この時期には、以下のような傾向が見られます。
・テリトリー意識や自立心が芽生える
・吠えなどの行動が見られるようになる
・興奮しやすく、集中力が持続しない
また、運動能力が飛躍的に向上するのもこの時期です。
社会化期が終わり若年期をむかえても、引き続き社会化していくことが必要です。
その後、小型犬で生後1年から1年半、大型犬の場合は2年ほどで行動の成熟をむかえます。