2.視覚
犬が見ている景色は少しぼやけていますが、左右は斜め後ろまで広がっており、その端っこで素早く動くものも捉えています。色彩は黄色と青色とグレーの濃淡で構成されており、多少の暗闇であっても見渡せています。
犬は細かいものを見分けることは苦手で、人間でいうと0.3程度の視力しかありません。これは、眼から脳へ情報を送る視神経の数が、人よりずっと少ない(人には約120万本ありますが、犬は16万~17万本ほど)ためです。また、ピントを調整できる範囲が狭いので、眼の前20~30㎝より近くはぼやけてしまうようです。
そのかわり、水平方向に広い範囲を見ることができます。人の視野はだいたい180度から200度程度ですが、鼻先が長く、眼が側面にある犬種の視野は240~270度ほどになるそうです。つまり、頭を動かさなくても斜め後ろまで見えることになります。ただし、フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は眼がほぼ正面を向いているため、視野の広さは人とほぼ変わらないようです。
人間は見ている中心部分に焦点が集中し、周縁部分はぼやけますが、鼻先が長い(視野が広い)犬種は、焦点が水平方向に広がっているため、左右の周縁部分も比較的よく見えているようです。イメージとしては、全体のピントが少しぼけたパノラマ写真のような見え方でしょうか。
動きの速いものを見ることは得意です。これは、犬が本来、狩りをしてきた動物であり、獲物を捕らえるために備わった能力だと言われています。視線を動かさずに、水平線を駆けていく獲物を眼で追うことができるのだそうです。また、人にはなめらかに見える動画であっても、地上波テレビのように1秒間に表示されるコマ数が少ないと、コマ送りしているように見えている可能性があるそうです。
色の見え方も人と異なります。犬が識別できる色は青と黄で、赤色は認識できないようです。そのため、赤い花や果実などはグレーに見えているようですし、緑の芝生の上でボール遊びをするとき、止まっている赤色のボールをうまく見つけられないこともあるようです。
暗いところで物を見る能力は人より優れています。夜、散歩するときは懐中電灯がなくても、犬には周りがよく見えているようです。これは、犬には網膜の奥に光を増幅して視神経に伝えるタペタムという反射層があるからです。(これには例外もあり、シベリアンハスキーなど一部の犬種はタペタムを持っていません。)夜、フラッシュをたいて写真をとると犬の目の部分が光って写るのは、光がこのタペタムに反射するためです。
このように、人と犬は同じものを見ていても、その見え方にはずいぶんと違いがあります。これは、眼の果たしている役割が違うからなのではないかと思われます。
人は、五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)のうち、視覚への依存がとても高いため、対象を見定めて、そこからできるだけ多くの情報を得ようとします。
犬の場合は、嗅覚が一番で、次に聴覚が鋭いため、視覚への依存度合いは、人と比べてかなり少ないのが特徴です。犬も気になるものがあれば注視しますが、普段は一点を集中して見るというより、全体をまんべんなく見ているようです。そこで気づいた変化については、眼だけにたよらず、離れたところからは耳を使い、近づいたら鼻を使って、更に調べることができますから、そこまで細かく見分ける必要がないのかもしれません。
3.聴覚
私たちが暮らしている世界は、様々な音(空気の振動)で満ちていますが、人が聴きとれる音は、その一部にしか過ぎません。犬もすべての音を聴きとれるわけではありませんが、少なくとも、人が聴きとれない小さい音や高い音を聴きとれる優れた能力を持っています。
犬は、人が聴きとれる音域(20Hzから2万Hzまでとされていますが、大半の人が聴きとれるのは1.5万Hzくらいまで)の音をほぼすべて聴きとれるだけでなく、さらに高い音まで聴くことができます。(ちなみに猫は犬よりさらに高い音域まで聴きとることができます。)
犬の訓練などで使われることがある犬笛は、この能力を利用したもので、人には聴きとれないが、犬には聴きとれる2万~3万Hzの音を出すことができます。
また、金属製のものがぶつかる音は、高周波の音を多く含んでいるため、たとえ人にはさほど気にならないような小さな音であっても、犬にとっては不快な音となっている可能性があります。
他にも身近なところでは、スマホやパソコン、掛け時計や目覚まし時計などに使われている水晶振動子は、絶え間なく高周波の音を出しています。この音は、人には聴こえませんが、犬には聴こえていると考えられます。その他にも身の回りには、人には聴こえないが犬には聴こえる音を出しているものがあるかもしれません。
私たち人間が静かだと感じているときに、犬も同じように感じているとは限らないのです。